読書感想文① 辻村深月「かがみの孤城」

読書感想文

生徒から本を借りた。聞けば2018年の「本屋大賞」らしい。流行にうとい私は一切知らない本だったので、このように貸してくれるのはとても嬉しい。(まあ、日本語の教師として「本屋大賞」はチェックすべきでしょう…)せっかくなので感想を書こうと思う。(ネタバレなし)

 

冒頭部分を紹介する。

いろいろな事情で日本の学校に行けない中学生たちが、鏡を通って謎のお城にたどりつく。そこでは「オオカミさま」と呼ばれるオオカミの被り物をかぶったドレス姿の少女がいて、この城で隠された「鍵」を探したものの願いを一つ叶えてやろう、という。

中心となる登場人物はいわゆる「不登校」の中学生たちだ。主人公の「こころ」も同級生からのいわれのない嫌がらせのせいで、学校にいけなくなってしまっていた。

 

城には七人の中学生が集められるのだが、まずその子たちの人物描写がとても上手い。大体、この手の話だと「いじめらていた」「いじめていた」「空気が読めない」「親から愛情をもらっていない」などなど、テンプレートな描写になりがちなのだが、そんなことにとどまってはいない。読みながら、主人公の少女と一緒に、「こういう子だな」と、思っていたのが読み進めるうちに印象が変わってくる。「あ、こういう一面もあるのか」とわかってくる。これが、実際の人間同士の関係と同じでとても自然だ。最初に得た印象だけでも十分、上手い描写なのだが、それより一層奥の描写を描いているので、キャラクターたちがみんな実在するように親しみを持てる。私も、最初のイメージで嫌いだな、と思ったキャラクターが、後では一番お気にいりになっていた。

子どもたちの心理描写もうまい。変に誇張せず美化もしていない。中学生特有の、「自分でもよくわからないけれども、気づいたらこのような状況だった。」という状態がよく描かれている。子どもたちは周りのことも、自分のことも、「悪い」「良い」の判断をする間もなく、現在の位置に流されていた。そして結局それが一体何なのかわからないまま、「学校に行けない」ということだけで自己嫌悪に陥っている。

その周りの大人たちの描写もうまい。親や教師たちは、悪意のある人間も一部出てくるが、基本的は大人なりに子どもたちの不登校の「問題」を解決しよう、としている。つまり「善意」はある。しかし、「善意」はあくまで「善意」だ。本当に子どもに寄りそって、子どもと一緒に考える、ということの難しさをまた改めて知ることができる作品だ。(自分の言動を反省するきっかけにもなった。)

 

 

またこの作品の根幹を成す「他人を助けることは自分を助けること」という真理はとても共感できる。私は本当に感情を伝えるのが不器用な生徒がいると、「自分みたい」だと思う。(本当は感情を上手く伝えられる中学生など存在しないのだが)

教師になることが決まったとき、亡き父に「○○(私)は弱い生徒の立場を解ってあげられるから、そういう生徒たちの味方になるような教師になりなさい。」と言われたことがある。その時は、あいまいな態度でごまかしたが、心の中では何となく反発していた。確かにクラスの中で中心になるような生徒ではなかったし、無口で友達とも話さない生徒だったから、きっと親なりに心配もしていたのだろう。けれども、そのような目で見られて、「弱い」と規定されるのが嫌だったのだと思う。

けれども、確かに私は「不器用な生徒」だった。学校と家が世界の全部だった学生時代、私はさっさと「本」の世界に逃避した。そのおかげで助かっていることもあるので、一概に否定するつもりはないが、それでも人間同士の関わりが薄かったことで、現在も不便なことがある。今更当時のことをとやかく言っても仕方ないが、生徒たちの中でいつもはうるさく、騒いでいる子が、討論の時などに何も言えずにグッと口をつぐんで、涙をこらえているのを見ると、どうしても昔の自分と重なる。何をどう言えばいいのか、全くわからないで、それでも感情だけが波うっているような生徒を見ると、私の感情も波うってくる。

私は口下手だった昔の自分を助けるつもりで、その生徒の話を聞く。だからといって、父が言ったように、簡単に生徒たちの心はわからないし、本当の意味で寄りそうのは難しい。けれども、どうにか何かのきっかけだけでも与えられないだろうか、と思う。

 

少し話がそれてしまったが、「かがみの孤城」を読むことで、自分のことを見つめなおす機会になった。文体も読みやすく、構成も最後までこっているので、ぜひ読んでほしい。(文庫本が出たら買うつもりでいる。)

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