「詩を書く」指導方法①

「詩を書く」

「詩を書く」指導方法①

「『詩』って何?」

 二年生三学期に「詩を書く」という題があり、生徒たちに詩作をさせる授業がある。私はまずこの題名が好きだ。「詩を書こう!」でも「詩を書いてみよう!」でもなく、「詩を書く」と言い切っていることに好感が持てる。生徒たちにも「『書く』って言っているのだから、『書く』しかないよ!」と、強制(?)しやすい。それぐらい生徒たちは「詩を書く」ということには意欲はない。そもそも「書く」=「面倒くさい」という感覚がある。それはつまり難しい、どうすれば良いかわからないからでもある。その中でも「詩」は確かに難しい。

 確かに「詩を書く」から書けと急に言われたら正直大人でも難しい。大抵の人は書き方がわからず止まってしまうのではないか。最初にこの授業をした時、出来上がった生徒たちの作品は「僕はサッカーの試合に出た/力を合わせて勝った/嬉しかった」といったまるで「日記」のような作品だった。これはだめだ、と思い、そもそも「詩」とは何か、を考えることになった。私は「嬉しい」など具体的に書くと「詩」らしさが無くなるのではないか、と感覚的に思っていた。そうやって考えているうちに、ふと思いあたったのが、イギリスの児童文学作家、詩人であるエリナー・ファージョン(Eleanor Farjeon,1881-196)の作品で、その名も「詩って何?(What is Poetry?)」という詩だ。(私はイギリス児童文学が専攻でした。)短いので原文と翻訳(訳:瀬田貞二)を載せる。

What is Poetry? Who Knows?      詩って何? わかる?

Not a rose, but the scent of the rose;   バラでなくて、その香り

Not the sky, but the light in the sky;   空でなくて、その光り

Not the fly, but the gleam of the fly;   虫でなくて、その動き

Not the sea, but the sound of the sea;   海でなくて、その響き

Not myself, but what makes me     私でなくて、この身に

See, hear, and feel something that prose 見せて、聞かせて 感じさせてくれるもの

Cannot: and what it is who knows?    普通の文章で表わせないもの

                    そんなものだってこと、わかる?

 私はこの詩を読むと「詩」とは「対象」「物」や「感情」を書くより、そこで人物が感じる「五感」が大事なのでは、と思った。「感情」とは、周りからの刺激によって、五感が刺激されて起こるものだ。だから、自分がこうした、こうなった、そしてこう感じた、と書くよりも、五感を通して見えたもの、聞こえたもの、匂い、手触り、味、などを書く。そうすることによって、その場の空間を言葉で再現して、そこにある空気感を再構築すれば、読者は勝手にそこで感じた感情をくみ取るのではないだろうか。つまり直接的に書くとどうしても日記のような、散文的になりがちだが、言葉を使って「雰囲気を醸し出す」程度なら「詩」らしい表現ができるのではないのだろうか。(正直、感覚的な部分が多いので、上手く文章化できないのだが…)

 そこで生徒たちに、詩を書く前に書きたい①場面とその時の②感情を書かせて、その時に感じた③「五感」を全て書かせる。見えたものや聞こえたもの、匂い、手触り、味などを覚えている限り先に書かせる。舞台の上でのスポットライトの光、走った後の汗でへばりつく汗の感触、ホイッスルの音、消毒液の匂い…など、全部書かせる。

①場面(例:試合、大会、家族とのけんか、帰り道)

②感情(例:たのしい、悔しい、嬉しい、感謝)

③五感(例:足音、試合開始の音、観客の顔、歓声、相手の足、地面、夕飯の匂い)

そして、それを使って書くのだが、②で「感情」として出した感情を表す単語(嬉しい、悲しい等)はなるべく詩のなかに入れない。③を使って空間を作り出すのを目標に書かせる。実は③を簡単に羅列するだけでそれなりに雰囲気というか、空間が再現される。例えば、

 白い部屋 / 消毒液の匂い / 金属がぶつかり合ってガシャガシャと鳴った

 これだけでも病院と言わなくても病院だとわかるし、手術の前なのか、何か不安な雰囲気まで漂ってくる。つまり、

 僕は病院に行った / 今から手術を受ける / 僕はとても緊張した

 と、日記のようになるのを防ぐことができる。最初にあげた作品の方が、読者も作者の経験を追体験することになるので、作品に感情移入しやすくなる。この五感で感じた者を羅列する方法は意外と簡単にできるので生徒たちも作りやすい。他にも、簡単に例をいくつか挙げるなら、

 ①ピーッ / みんなが走り出した / ボールが泥と一緒に跳ね上がる

 ②スポットライトのまぶしい光 / 前にいる友達の背中 / 聞こえてくる何度も聞いたピアノの音

などなど、三行だけでもそれなりに世界観が確立される。読者がパッと情景を想像しやすいので無駄な説明がいらなくなる。

そして、このこのように五感として書き出す時、生徒たちも頭の中でその時のことを再体験することになる。具体的に思い出そうとするので、感情も同じように再起される。その状態で詩を書くので、生徒たちの詩を作る意欲があがる。つまり、「書く」ことに拒否感が少なくなり、割とノリノリで書くようになる。(当然、全員がそうなるというわけではないが。)生徒たちはよく覚えているし、よく見ている。いつもはそうは見えない(失礼)生徒が、驚くような表現を使ってきたり、細かい部分まで覚えていたりする。だからいつもは試験で点数をとることができない生徒が「天才か!」と思わせることを書いてくることもある。やはり作品を作るのはこういう時が楽しい。(生徒もノリノリだが、この授業をしている私もノリノリになる。)そのような生徒の一面を見るためにも、表現能力としての「詩作」は頑張りたいと思う。

次回も詩作の指導について、「言葉選び」と「テンポ感」を中心に書いていきたいと思います。

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