少年漫画①「金田一少年の事件簿」

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少年漫画①「金田一少年の事件簿」

 私が初めて自分のお金で単行本を買った漫画は「金田一少年の事件簿」である。従妹の家で初めて読み、堂本剛さん主演のドラマを観て、小学生のころ非常に影響を受けた作品だ。今年で連載30周年になるそうで、再ドラマ化や新連載も始まっている。今回は「金田一少年の事件簿」について、良いところや個人的な不満(?)などを語っていきたい。(個々の事件に関してのネタバレはありませんが、大枠についてのネタバレはしています。あとめっちゃ語っています。)

 最初は連載初期Fileシリーズ(「オペラ座館」から「速水玲香誘拐」まで)の良い所をあげたい。

まず、この作品は「金田一少年の事件簿」という題名である。主人公は金田一一(はじめ)という一人の少年である。金田一一は大前提として「探偵」ではない。有名な探偵の孫という設定で「はじめちゃん」自体は自ら「探偵」を名乗ったことがない。同じ局番で続けざまにアニメが放映されたことで比較されがちだが、この部分は「名探偵コナン」と大きな違いがある。「金田一少年の事件簿」はあくまで「少年漫画」との枠組みで探偵ものを描いた作品だ。これが当時としては画期的であった。だから初期の連載では探偵漫画でもありつつ、主人公の金田一が成長していく少年漫画であった。私はこの部分が何よりも大事だったと思う。

例えば、被害者や犯人となる登場人物もはじめちゃんと近かった。同じ不動高校の生徒や先輩たちだった。彼/彼女らの「死」はただの「死」でなく、主人公との「別れ」として描かれた。「異人館村」「放課後の魔術師」などは金田一の胸に深い悲しみを抱かせたまま事件が終わる。そんな主人公に感情移入することで、読者も読後の切なさややるせなさが印象に残った。また「雪夜叉伝説」では明智警視というライバルや、二人目のヒロインである速水玲香が現れ、物語に幅が生まれる。「秘宝島」では死に急ぐ犯人を守り説得し救出する。ここれへんは完全に王道少年漫画の主人公である。次の「異人館ホテル」では更に悲しい別れを経験し、「首吊り学園」では自分の推理を出し抜く犯人と遭遇する。「飛騨からくり屋敷」では剣持警部に近い殺人が起こるので、彼を通して事件に感情移入ができる。「タロット山荘」では同じように玲香ちゃんを通して感情移入ができる。「金田一少年の殺人」では自分が追い詰められる立場を経験する。「蝋人形」「怪盗紳士」では犯人との対決と、その後の別れのシーンが印象的だ。そして「魔術列車」では犯罪者側のライバルが出現する。(彼についてはまた後で語る。)

並べてみたが「殺人事件」という枠でも、常に変化があって続けて読んでも全く飽きがこない。しかし、Fileシリーズが終わりCaseシリーズやR以降はぶつ切りになり、一つの「殺人事件」を描くことが主流となっていく。金田一というキャラは「少年漫画の成長していく主人公」ではなく犯人を暴く「探偵役」になってしまった。こうなってしまった理由の一つは、金田一の次の成長を描けなくなってしまったことが原因だろう。「黒死蝶」で絶望し死を選ぶ犯人に、金田一は「秘宝島」と同じ言葉を投げて救おうとする。しかし、その救いの手は拒絶されてしまう。犯人を絶望から救えなかった主人公。私はこの次の成長をどう描くかを楽しみにしているが、これを越える犯人との対決描写はいまのところ見当たらない。

 少し話はそれるが「名探偵コナン」でコナン君が「犯人を自殺させるような探偵は探偵じゃない」発言をしたことで、金田一は「アイツよく自殺させているから探偵失格だ」と比較された時期があった。そして実際に感覚的にそれ以降犯人の自殺が描かれることもめっきり減った。だが待ってほしい。最初にも確認したが金田一はあくまで「少年」なのだ! 「探偵」ではないのだ!! 「少年」として事件に立ち向かってきた少年漫画の主人公なのだ!! そもそもその部分で「コナン」と同じ土俵で比較することがおかしい。私は犯人の自殺展開を期待しているわけではない。確実に「黒死蝶」までの犯人たちの自殺には、金田一の成長物語のなかで大事な要素として描けていた。それを否定してほしくないのと、金田一がこの水準で描き続けていたなら、「コナン」とは違う角度から、命の大切さや、罪とは何か、それを暴いて裁くことの意味、真の正義とは何か、など深いテーマで描けたであろうことを、とても惜しく思っているのだ。まあ背景に原作者が二人体制だったのが、一人になったということもあるらしいが、非常に残念だと思っている。また「探偵学園Q」が途中連載で入ったことも理由にあるだろう。これは完全に題名からして「探偵もの」だと言い切ってしまっている。これはこれで好きだが、金田一という少年漫画よりも「探偵もの」を軸として描くことに流れた原因になってしまった。(まあ、結局「名探偵コナン」の人気に煽られてしまったのが原因だと思う。)

また「金田一」の良いところで、「犯人」の動機が辛く、かわいそうなものが多いと言われているが、確かに初期の作品は金田一や他のメインキャラと一緒に感情移入ができる物が多い。ただ犯行動機が同情できるものなら後半の作品にもある。しかし、前期と比べて金田一たちが犯人の心情に寄りそっていないので、読者が感情移入しづらくなってしまっている。金田一は初期の「異人館村」では犯人の辛い境遇を想って事件後涙を流した。しかしR以降は、決まりきった正論をぶつけるだけになってしまうことや、「仕方ない」の一つで片づけるようになってしまった。(全くフォローがない話もある。)金田一が「探偵役」になるにつれ、犯人もかわいそうな過去を持つ「犯人役」でしかなくなってしまった。「首吊り学園」のように、事件中の金田一と「犯人」が交流し、「犯人」の心情に寄りそうことで産まれる、犯行動機の真の重さが描けていない。それでも「魔犬の森」までは金田一がしっかり個人の感情を持って「犯人」と対峙していた。彼なりの「少年」なりの正義と苦悩がそこにはあった。

まあ、しかし、これが失われたのは、金田一に近い人間が「犯人」「被害者」だった、をやりきってしまったから仕方がない部分もあるだろう。(彼の幼馴染が犯人はもう五人くらいいるのではないだろうか(笑))

同じマンネリ化でいうなら、ヒロインである美雪も最初の頃はケガをし、金田一を動揺させ、それでも立ち直る存在として描かれていた。しかし何度もケガをし、誘拐され、襲われると、シラケてしまう。金田一も初期の頃のように落ち込まない。(読者もなんだかんだ無事に助かってしまうことを予想している。)

とにかく金田一の感情の幅が極端に狭くなったのが大きな問題だと思う。おちゃらけることや動揺もするが、本気で犯人に怒りを感じること、自分の正義に自信を失くすこと、仲間を傷つけられて落ち込むことが全くなくなってしまった。「金田一」という少年が、とにかく犯人を暴くだけのつまらない探偵になってしまった。

 とは言っても、私も金田一に憧れて将来は「探偵」になることを小学生の作文に書いた人間だ(笑)。推理ものの漫画として世に出て、有名になった作品だからそれを否定する気はない。(「異人館村」のトリックがパクリだったには今は目をつぶる)。けれども、やはり「少年漫画の主人公」をしていた金田一の方が魅力的であった。犯人に全力でぶつかって、時には自殺に追い込んでしまっても、必死に言葉を投げる金田一の方が、私は好きだった。

 また文句になるが、ヒロインの七瀬美雪との関係も停滞してしまった。「露西亜館」では鏡越しにキュンとするシーンが描かれていたが、それ以降二人の恋愛はほぼ描かれなくなってしまった。それでもRシリーズ後半の「聖恋島」で美雪ちゃんのマジックを微笑ましく眺める金田一は好きだ。こういう二人の絆がわかるシーンはどんどん入れてほしい。せっかく「少年漫画」なのだから恋愛も一つの物語要素としてしっかり描いてほしい。

 そして現在。とにかくマンネリ化を打破するためだが、なんだか知らないが「金田一37歳の事件簿」が始まった。私は「少年漫画」ではなくなってしまった金田一を読み続けるのが辛かったので、このような新しい試みは歓迎だ。まあ、37歳ではじめちゃんと美雪の関係が進展していなさそうなのにはがっかりしたが……。さらに「少年漫画」どころか「成年漫画」になり、成人男性向けなエロが堂々と描かれるようになったのはとまどったが……。それでもそこに目をつぶって、大きなストーリーが感じられる今後の展開には期待している。今のところは……。

正直にいうと「37歳」で不安な要素は、実はライバルである「高遠」である。「魔術列車」での彼は犯人として完璧であった。追い詰められてからの豹変。悲しい過去。もう少しで届きそうだった母への憧れ。かなり魅力的な要素をつめこんだキャラクターだった。捕まってもなお、復讐を完遂される腹黒さもよかった。その後の脱獄もまだ許せた。金田一少年も祖父からマジックを教わったという設定のなか、そのライバルがマジシャンであるのも対照的でとても良い。

しかし、彼は巻がすすむにつれて「殺人コーディネーター」という謎の肩書を得る。結局、犯人の後ろに彼がいた、という事件が増える。しかし、それでも彼はいままで「マジシャン」として描かれていた。割と新しい「薔薇十字館」でも彼は公園で子供たちにマジックを披露している。スピンオフとして出た「高遠少年の事件簿」では、高校生の彼がやはり公園で、笑顔でマジックを披露している。

彼にとってマジックはアイデンティティそのものである。母親である「近宮玲子」と自分をつなぐもの。彼女を亡くした今でも、自分の存在を確かなものとしてくれる唯一のものだった。

ちなみに、彼の「殺人者」というアイデンティティも最初はこの母から受け継いだものだったと思う。最後の復讐は「高遠」ではなく「近宮玲子」によって完遂された。(それを知った時、高遠は嬉しかったろうな……。)

しかし、後付けで「高遠」には犯罪コーディネーター(?)である「父親」がいたことになってしまった。この「父親」については、いまだによくわかっていないが、とにかくそういうキャラ設定になってしまった。それでも「高遠」は登場するたびにマジックを子どもたちにみせる描写があった。「母親」とのつながりを大事にしていた。彼はマジシャンとしての自分に重きを置いていた。

しかし、「37歳の事件簿」になっての彼は(2022年7月現在)マジックをしていない! 怪しい犯罪集団の教祖(?)となって収監されている。いまだに登場しない父親側のアイデンティティへと染まっている。そもそも収監されていてはマジックを見せることもできない。独りでマジックはできても、マジシャンとして誰かを魅了させることができない。ここらへんの描写を今後どうするかによって、私の中の作品の評価が大きく変わる。もう完全に父親側の「殺人コーディネーター」としてふりきったのか、それでも母親の「マジシャン」としてのアイデンティティを守っていくのか……。

「奇妙な能力で他者を魅了する」という点においては、今の「高遠」もしていることだ。けれども、彼がマジックを披露しているのはいつも「子供」であった。彼が母親のマジックに魅了されたのも少年期であった。マジックを通して彼が母からもらったものは、もっと輝いて気持ちがわくわくするものだったはずだ。そして彼もそれを受け継いで、子供たちに「マジシャン」として与えてきた。

「37歳の事件簿」は過去20年間になにがあったのか、未だに具体的な描写はない。「高遠」にとって、「マジシャン」のアイデンティティを完全に捨てる経緯があったのか、それとも現在も持ち続けてきて、今後なにかしらの葛藤があるのか……。製作者陣営はそこまで考えていないのか……!(正直これが一番ありそうで怖い。)

 とにかく、私は文句をいいつつも、好きで応援しているコンテンツなので、これからの展開に期待したい。

 長々と書いてしまいました。だれか「『金田一少年の事件簿』から見る親から受け継がれる血とアイデンティティ」でみたいな論文書いてください。

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