雑記①劇団四季・イギリス版・映画「CATS」

雑記

ミュージカル「CATS」が映画化したので観にいった。映画よりも前に、高校生のころに従姉に連れられて劇団四季を観にいったのが、私と「CATS」との初めての出会いだ。イギリス版のDVDも購入して楽しんでいるので、簡単に作品についての解説と、映画・四季・イギリス版、それぞれの違いや感想を書きたいと思う。(ストーリーに関するネタバレ無し)

そもそも「CATS」とは、イギリス(アメリカ出身だがイギリス人に帰化)のノーベル文学賞受賞作家、T.Sエリオットの詩集“The Old Possum’s Book of Practical Cats”が原作である。個性豊かな猫についての詩を集めたものであるが、それぞれの詩に特に関連性があるわけでもなく、一つのストーリーがあるわけでもない。

これを一本のストーリーにまとめ、登場する猫を増やしてミュージカル化しイギリスで初演したのが1981年。(日本での初演は1983年。)代表曲である『メモリー』のヒットもあり、全世界で公演が行われるようになった。しかし、元が詩集なので、ミュージカル自体もストーリーがあって、ないようなもの。上演されるうちにナンバーが増える公演もあれば、カットされる公演もある。また、猫の性格や容姿も国や時代によって変わっている。だから、過去から現在まで世界中にいろんな形の「CATS」が存在する。今回の映画もそのうちの一つ、といえるだろう。

映画版はよく批評に「ストーリーが無い、わかりづらい」というのを見かけるが、映画だけみれば仕方がない感想だが、実は、ミュージカルよりも十分丁寧にストーリーを導入する努力がなされている。ミュージカル作品の中でももともと歌とダンスを楽しむ色合いが強い作品だ。しかし、ストーリーを解りやすくしようとした分、それに伴うミュージカルとのキャラ改変もあるので、ミュージカルに思い入れがあると、これはこれで受け入れられないという難点もある。まあ、上記のようにそもそも猫に決まった性格があるわけではないので、そのような違いも仕方ないとも思う。

個人的な意見だが、そもそも「CATS」は起承転結のストーリーを楽しむ作品ではなく、歌やダンス、身体表現の美しさを楽しむ作品だ。人間が本物の猫のようなしなやかな動きをする様子は美しい。また、原作が英詩なので、英語を読めるなら、韻を上手く踏んでいる独特のリズムを楽しむことができる。(四季や映画を吹き替えで観るとできないが。)英語に興味があるなら英語版の歌詞を楽しんでほしい。

また、何度も観ることで20匹以上いる猫を見分け、覚え、全員の仕草や表情を楽しむ作品である。つまり、一つのことを長く愛し、細かいところまで楽しむ、いわゆるマニアックというか、オタクな感性を必要とする作品だ。(私は完全にこの部類だ。)

 私は四季を観た高校生時代にも猫の情報を集めて、性格や猫同士の関係性を想像して楽しんでいたが、映画をきっかけにイギリス版のDVDを購入して毎夜流すぐらいに再燃してしまった。四季のミュージカルやイギリス版では、ナンバーを歌っている猫の後ろで、他の猫たちが歌によって、それぞれ違う行動をとっている。微笑みながら相づちを打って楽しんでいる猫や、他の猫とじゃれあっている猫。興味なさげに寝そべっている猫。と、いうように、目立たない場面でこそそれぞれが個性を発揮している。しかし、当然初めて観る観客がそこまで把握できるはずがない。そもそも猫が見分けられないし、名前も覚えられない(笑)。だから日本の四季でもリピーターは多い。観れば観るほど猫の個性に気付き、新しい発見がある舞台だからだ。しかし、映画だとカメラワークの関係もあり、そういった細かいところの個性は出せていない。そのナンバーごとの主人公のアップもいいのだが、「CATS」の醍醐味は実はカメラの外にいる猫たちの細かい仕草や表情にある。そういう意味ではそもそも映画向きではない作品だ。

しかし、当然、映画版もしっかり映画映えする工夫をしているので楽しめる。テイラースウィフトの新曲追加や、スティーヴン・マックレーのタップダンスなどだ。実は映画でスティーヴン・マックレーが演じる「スキンブルシャンクス」が私の推し猫なのだが、私は2003年のローザンヌ国際バレエコンクールで優勝した時のスティーヴン・マックレーのタップダンスを偶然テレビで観て感動した思い出がある。しかし、当時は彼の名前も「ローザンヌ」という大会も知らなかった。それでももう一度あのタップダンスが観たいなと思っていたので、(視聴後に彼だと気付いたのだが)このように巡り合えたのがとても嬉しい。

 このようにそれぞれの媒体でいろんな魅力を見いだせるのが「CATS」という作品の良い所でもあり、思い入れが強い人がいる分、「設定・キャラが違う!」と媒体によっては受け入れられない人も出てくる作品だ。まあ、そういうのも含めて気まぐれといわれる「猫」らしい作品だと言えるだろう。

以下は、主要キャラ(趣味により若い雄猫たち)の感想や媒体による違いなど。

マンカストラップ:若いリーダー猫。アメリカンショートヘアーのような灰色に黒の縞模様。全ての作品において「イケ猫」。顔が整っていて体格が良い人が演じる場合が多い。四季では子猫のシラバブとの絡みが多くて「良いお兄ちゃん」である。イギリス版では優しい慈愛のこもった眼差しが印象的。映画版もやはり顔が良い。

ラム・タム・タガー:非常に人気の高い猫。変わり者で服装も派出で目立つ。ロック調のナンバーもかっこいい。特にイギリス版を演じた役者さんが2m越えの長身で脚がとても長くスタイル抜群で非常にセクシーでオススメ。四季では観客が彼に連れ去られて舞台の上に立つサービス演出があった。連れ去られたい観客は前の方のめぼしい席を狙っていたのだが、現在では安全のためか握手や絡みに変更されたとか……。

ミスターミストフェリーズ:小柄な黒猫。作品によって一番目立って解釈が変わる猫。映画版ではほぼ主役だったが、詩集と四季ではクールでひょうひょうとした猫というイメージだったので、映画版のおどおどしたミストにとまどったファンは多いとか……。イギリス版では割とやんちゃで甘えん坊。彼のナンバーをひねくれもののラム・タム・タガーが手放しに誉めて歌うのも見どころ。けれども、映画ではこれも改変されてしまいとまどったファンはやはり多い。

スキンブルシャンクス:夜行列車で働く猫。どの作品でも一番盛り上がるナンバー。明るい曲調に派手な演出が見どころ。マックレーが演じた映画版ではタップダンスがすばらしい。四季と舞台版ではがらくたで作る大きな汽車が楽しい。この猫も年齢と性格が作品によって大いに違う。四季では彼の役が若手の登竜門であるため、さわやかな青年として登場する。日本語の歌詞にも「夜行列車のアイドル」とあり曲調とも合わさってまさに「歌のお兄さん」。イギリス版は執事風のひょうひょうとしたおじさん。ひょうきんな歌い方とダンスがかわいい。後ろにいるときも年長者らしく振舞っている。映画は髭のはえた仕事に真面目な気難しそうなおじさん。正直、最初はマリオに見えた(笑)。映画は映画で歌と圧倒的なタップダンスでお気に入りのナンバー。

 と、これにくらいにしておいて。このように細かい部分に注目するのが楽しい作品だ。上級者になるとナンバー無しのバックダンスを踊っている猫まで完璧に特徴を言えるのですごい。作品によってキャラの違いもさまざまだが、厳密に言うなら、同じ四季でも演じる人によって動作や表情が違うのだから、やはりそれも含めて「CATS」の魅力なのだろう。(四季での演者の違いも上級者は見分けられるのだからまたすごい。)ちなみにイギリス版のDVDはAmazonにて1000円前後で買えるので、興味のある方はどうぞ。

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