閑話休題②「歌《친구(チング)》翻訳」

閑話休題

閑話休題②「歌《친구(チング)》翻訳」

今年の二学期もいつの間にか期末が近づいている。11月はあっという間に終わっていった。このブログも忙しさにかまけて更新を怠ってしまっている……。それでも訊ねてくれる人達に感謝しながら、期末試験作りの息抜きに閑話休題だけでも更新してみる。

韓国に안재욱(アン・ジェウッ)の歌う《친구(チング)》という曲がある。「チング」は「親友」という意味で、大学生の頃、カラオケのシメで定番だった。教員のカラオケでもシメとしてよく歌われる。(といっても、私の学校は二次会、三次会のカラオケまでいくと、こんなにしんみりした曲を歌える状態ではないので、あまり歌った記憶がない。)

歌詞が良く、大学の頃は泣くのをこらえて同級生たちと大合唱していた。最近、この曲の日本語翻訳を作ったので見てくれないか、と依頼をもらった。最初は添削だけにしようと思っていたが、つい仕事の合間を縫って全部一から翻訳してしまった(笑)。それが息抜き(?)として楽しく、2時間ほどかけて作ってしまった。曲に合わせて歌えるように、というのが依頼だったので、意訳している分部も多い。せっかくなので、ここで紹介する。

괜스레 힘든 날 턱없이 전화해

辛い時は電話をかけた

말없이 울어도 오래 들어주던 너

泣き声をただ聞いてくれたね

늘곁에 있으니 모르고 지냈어

近くにあって気づかなかった

고맙고 미안한 마음들

涙色の想い

사랑이 날 떠날땐 내 어깰 두드리며

愛が終わる日、隣に立って

보낼줄 알아야 시작도 안다고

「はじまり」を教えてくれた

애기하진 않아도 가끔서운케 해도

黙り込んでは傷つけあった

못믿을 이세상 너와난 믿잖니

それでも君を信じていたよ

겁없이 달래고 철없이 좋았던

怖いものも知らず歌った

그 시절 그래도 함께여서 좋았어

そんな日々すら共に過ごせた

시간은 흐르고 모든게 변해도

時は流れ変わる世界で

그대로 있어준 친구여

変わらぬ瞳 チングよ

(※)

세상에 꺾일때면 술 한잔 기울이며

立ち止まる日は 酒を注いで

이제 곧 우리의 날들이 온다고

未来を信じ 夜明けを待った

너와 마주 앉아서 두 손을 맞잡으면

言葉を交わし 君の手をとれば

두려운 세상도 내 발 아래 있잖니

またもう一度 歩きだせる

(※リピート)

눈빛만 보아도 널 알아

君の瞳はずっと……

어느 곳에 있어도 다른삶을 살아도

遠くにいても道が違っても

언제나 나에게 위로가 돼 준 너

いつも僕に勇気をくれた

늘 푸른 나무처럼 항상 변하지 않을

空の青さが変わらないように

널 얻은 이 세상 그걸로 충분해

君に出会えた 生きていくよ

내 삶이 하나듯 친구도 하나야

世界に一人 僕の チングよ

 歌詞の翻訳をしたのは、ほとんど初めてだったが、「曲に合わせる」というのがとても難しかった。元の歌詞がとても好きなので、できるだけ直訳を! と思っていたが、とても無理だった。また、日本語で「一つの曲」として完成させるのも難しかった。

 

 こうやってみると、日本語歌詞として歌えないことはないが、原曲の泥臭さが全く表現できていなくて悔しい。原曲は「社会・時代」それに対する「私と親友」の歌だ。社会や時代に立ち向かっていく中で、波にもまれて辛い時。共に酒を酌み交わして、自分達が新たな時代を作っていこう! と語った親友。それが、日本語訳にしてみると、一歩間違えれば「恋」の歌のようになってしまった。

 これは、当然、翻訳者である私の力量不足が原因なのだが、それと同時に、今の日本語の歌から「社会」という概念が消えているのではいのか、とも思った。日本人の政治離れは総選挙の投票率を見てもすぐにわかる。その中でも若者の政治離れを指摘する声が多いのだが、それは仕方が無い。若者たちが聴く歌に、「社会」に関する歌がほとんど皆無だからだ。「恋愛」、「友情」、「心の悩み」。ここ数年の歌の内容はこれだけで完結する。ヒット曲の中から「政治・社会」に少しでも触れたものを探すのは難しい。そんな歌が溢れる生活環境で、政治や社会に興味を持たせる方が難しい。(「歌」は「文化」。「文化」はその時代の「社会」と切り離すことはできない。)

私も直訳に近い「泥臭さ」を出した翻訳に挑戦してみたのだが、「日本語の曲」として違和感がぬぐえず、まとまった曲にしてしまった。(と、弁解しておく。)

 特に政治や社会から「歌」が離れたのは、ここ20年ぐらいだと思う。例えば、1990年代、2000年代初めにはモーニング娘。が一世風靡していた。彼女たちは代表曲「LOVEマシーン」で、「日本の未来は~」と歌っていた。今では聞けないフレーズだ。現在、未来は「私」もしくは「二人」の未来、としてしか歌われない。「日本の未来」と言われても、ピンと来ない。

他にも「ザ ピース!」では、「選挙の日」という単語も出る。全体的には「恋愛」や、「幸福」をモチーフにした歌ではあるが、そこに「選挙」という単語がすんなり入っている。今の時代に「投票、選挙」と入ると、「そういうのを促す歌」としか見られない。感覚的な話になるが、20年前はもう少し「政治・社会」が身近で生活の一部だったように思う。 

(この「チング」も2003年の曲なので、「日本だけが~」と一概に言っているわけではないのであしからず。)

近頃よく歌われる「心の悩み」も、本来なら「社会」あっての悩みだ。政治が人の生き方、その社会の価値観を大きく決めるのだから、人の生き方にも深く関わっているはずである。それを「個人の精神」の話で切り離して歌っているのだから、どうやら、当分、日本の政治が大きく変わることはなさそうだ。

「チング」は、近頃の曲にはない「泥臭さ」が、熱く未来を語った大学時代とマッチした、思い出深い一曲だ。社会人になった今も、同じ気持ちを持った大勢で一緒に歌った記憶が力になっている。新しい時代を、社会を、と思い続けるのは困難だし、今の学生たちに伝わらないことも多いが、「個人」だけではない一体感を少しでも持てる経験はしてほしいと思っている。(よい「泥臭さ」を残した翻訳があれば紹介してほしいです。)

 さて、期末です。みなさんお忙しいと思いますが、適度に現実逃避をしながら(笑)、よい新年を迎えられるように頑張りましょう。(できれば年内にあと一度更新いたします!)

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